空豆・・・押し抜き寿司が食いたい
☆ネットで聞き書き
春は、豆類の美味しい季節です。
中でも、旬の時期が短く、初夏にサヤごと店先に並ぶそら豆は、いちばん季節を感じる豆ではないでしょうか?
名前の由来は、豆のサヤが空に向かって伸びるから。
また、蚕(カイコ)が繭を作るころにおいしくなるので、『蚕豆』とも呼ばれます。
日本らしい食材のようにも思えますが、そら豆の原産地は、中央アジアから地中海周辺で、地中海から北アフリカ、東アジアまで栽培されています。
歴史も古く、チグリス・ユーフラテス川流域では新石器時代から、エジプトでは4000年前から栽培されてきた世界最古の農作物の一つです。
その長い歴史の中で、不当なあつかいを受けたこともあります。古代ギリシャやローマでは、花弁に黒点があるため不吉とされ、葬儀に使われました。
「三平方の定理」を考えだした数学者ピタゴラスでさえ、茎が冥界と地上を結んでおり、そら豆には死者の魂が宿ると考えたと言われています。
しかし、その美味しさは世界で認めるところ。
各国に広がりますが、高温多湿を嫌い、温暖な気候を好むため、西から東に伝搬されても、栽培できる地域は限られました。
栽培地域が限られたゆえに、そら豆を使った独特の郷土料理が各国で生まれています。
エジプトでは、そら豆をつぶしてコロッケにし、油であげる“ターメイヤ”という料理があります。
これは、アレキサンドリアの郷土料理。
現代のギリシャでは、お肉とトマトと一緒に煮込む料理に使われます。
南イタリアでも、そら豆は春の代表的な食材のひとつ。
羊のチーズ『ペコリーノ』とあわせて食べるのだそうです。
中国に行くと、南部、とくに四川省でよく食べられるとのこと。
中華料理で欠かせない調味料「豆板醤」は、じつは、そら豆を発酵させて作った味噌だということ、みなさんはご存知でしたでしょうか?
さて、日本には、8世紀奈良時代にインドの僧侶ボダイセンナにより伝えられたとされています。
高温多湿な日本、おのずと栽培地が限られ、鹿児島、香川、愛媛、千葉などが主な生産地となっています。
その中で、郷土料理の材料として、そら豆が有名なのは香川県讃岐地方です。
讃岐は、温暖で雨が少なく、そら豆の栽培に適した土地がらです。
讃岐といえば、うどんですが、うどんの原料である小麦も、同じように乾燥した気候を好み、讃岐は古くから良質の小麦も生産しています。
初夏、讃岐地方では、麦の収穫時期直前がそら豆の食べごろとなります。おりしも瀬戸内海では鰆(さわら)漁が最盛期を迎えます。
瀬戸内海で獲れる鰆と、旬のそら豆を使った『押し抜き寿司』は、香川県の春を代表する郷土料理。お嫁さんが鰆をもって実家に帰り、『押し抜き寿司』を作って、婚家に戻る風習もあり、今でも残っている地域があるのだそうです。
この「押し抜き寿司」の風習は、讃岐うどんの原料となる麦の収穫という重労働を前にして、英気を養うための習わしだとか。
まさに、讃岐地方の風土をよくあらわした料理と言えるのでしょう。
また、そら豆を煎って甘辛い醤油にひたした「しょうゆ豆」も、もうひとつの讃岐の味です。
弘法大師が伝えたとか、お遍路さんの接待に煎ったそら豆が醤油に落ちて、これが意外と美味かったとか、讃岐らしい伝説が残っています。
そら豆は、タンパク質、ビタミンB、カリウム、鉄分などを多く含み、疲労回復や貧血予防に適しているとのこと。
インターネットで調べれば、世界のレシピも見つかります。
夏前に体力をつけておくためにも、今年の旬は、各国、各地の郷土料理で味わうのもいいかもしれません。